Column

「日本の断熱住宅の原点は北海道にあり」建築家、山本亜耕さんに北海道の家づくりの今をお聞きしました。

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日本で一番寒い北海道の建築って?今回訪ねたのは北海道の建築家、山本亜耕さん。
設計された「澄川の家」でインタビューさせていただきました。
 

― 山本さんが北海道の住まいづくりで一番大切にされていることを教えてください。

地場の技術とその蓄積を使って地域を楽しみ長く暮らせる環境づくりです。
北海道はこれまでオイルショックや炭鉱の閉山といったエネルギー危機を何度も経験してきました。
昔は石炭をじゃんじゃん焚けた時代もあったけど、家中を暖める快適さは一度知ると捨てられない。
だから経済的に家中を暖めて暮らせるよう工夫を重ねてきたんだと思います。
今では断熱はもちろん、省エネで暖かな家は珍しくありません。
 

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外側だけを囲って冬の寒さを利用した冷温室。
お味噌やお漬物の保存、お父さんのビールを冷やすのにとっても便利。
省エネ住宅は、暖かさだけにフォーカスすることが多いが、折角寒い冬があるなら、その冬を活かさない手はない。

 

― 今、本州でも省エネが叫ばれるようになりました。
北海道の長い経験の中で、もっとこう考えた方がいいのに、と思われることはありますか?

意識として違和感があるのは、健康を犠牲にした省エネでしょうか。
人がいる所だけ暖くて他の所は寒い家は多いですよね。
健康のために増エネすることって恥ずかしいことでも何でもないんです。
エネルギーを使わないで我慢する、そういう省エネはやめたほうがいいと思います。
 

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― 省エネ自体を目的とした設計の流れも今はあると思いますが、デザインは本来快適に人が暮すためにあるのだと、本日ご案内頂いて感じました。

北海道にもデザイン派と省エネ派が対立する時期がありました。
でも結局、双方が行き詰まってしまったんです。
そもそも、建築のデザインはどの地域であろうと環境と一体のものですし、「カッコいいけど寒い!」とか「光熱費が高すぎる」とか、反対に「燃費は良くてもつまらない」とか・・どちらか一方で成り立つものじゃないですよね。
デザインか?環境か?ではなくて、デザインの幅を広げるためにも、環境的な知見が必要なのだと思います。
なので、単純に性能とデザインに議論が分かれ易い今の風潮は、少し残念ですね。
 

― 「澄川の家」は、住まい手の松田さんが工務店経営で、住まい手=作り手という点が珍しいですね。
設計者の立場から、作り手であり住まい手の立場から、お互い大変だった点はありますか?

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山本さんと施主兼工務店の飛栄建設(株)松田さん

松田さん:
初めての設計事務所の仕事の場合は、当たり前ですが納まりの特色がわからないので、それを掴むまで大変でした。
それと施主の立場としては、自分ならこうするけど勝手にしていいのかな?設計をお願いしているからには全部聞かなきゃダメかな?とか。
作っている間は必死で、自分の家とはあまり思わなかったですね。
300㎜の断熱は初めてだったので不安でしたが、自分の家だから挑戦できる側面もありました。
もちろん山本さんのご指導があってのことですが。

山本さん:設計者としては、大工さんが知識も腕もあって一生懸命で、次も仕事を頼もうと思いました。
だからこそ甘やかしてはダメな所は言いました。
慣れるまではやりとりがものすごく多くて濃密でした。
大工さんに通じる言葉で話せているか、確認も出来たし現場は本当に楽しかった。

幸い、僕らは先輩たちの失敗を見ながら育った2代目、3代目。
例えばこんな大きな窓、北国じゃ冒険だよね?と言われるけど、今じゃほぼ破綻しない。
それは経験を伝えて共有する文化が北海道に根付いているからだと思います。
この家は僕が設計したことになっているけど、その中味の多くは先輩たちの過去の蓄積。
例えばパッシブ換気って、北大(北海道大学)の先生たちが断熱建物の特性を発見したのがはじまりで、それを研究して検証と観察を繰り返し誰でも使えるようマニュアル化してくれた。
そして皆が少しづつ使いはじめてやっと独自の技術になったんです。
 

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パッシブ換気 床下部分(冬季間)
建物を断熱すると室内外の温度差が大きくなって自然換気量が増えるという特性を使う。
きっちり断熱気密をすると建物の上下に孔を空けるだけでこの自然現象を使った計画換気と暖房ができるんです。
今までとの違いは暖房や換気を担うのが設備(エネルギー依存)から建物(断熱主体)に変わるところです。
一日の内、暖房設備が動くのは6~8時間。それで計画換気と暖房を維持するには充分なのだそうです。

 

― 過去の検証や技術をみんなで共有しているんですね。
普通は秘密にしますよね。

ええ(笑)。本州では実践的な環境技術を特定の人達だけが学べる、民間のフランチャイズ方式が多い気がします。
そうすると、ノウハウは会員だけのものになり易いですね。
こちらでは、そうした基本的な教育を公共が担いました。
*BISのようなプロ向けの講習はもちろん、一般市民向け月例住宅講座のような無料講習会もたくさんあります。
そういう環境で、僕らプロも一般の住まい手さんも育っています。
だから断熱一つにしても、立場の差を越えてその大切さを理解する人が多いのかもしれませんね。
 
*BIS:(ビルディングインシュレーションスペシャリスト)北海道が作った断熱施工技術者(設計者)資格。
地域仕様である「北方型住宅」の設計者資格でもある。

 

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300㎜の断熱模型(実際には木材部分は熱橋にならないようずらしています)外壁は30×45角の材料を並べているだけ。
ホームセンターで買える材料なので、交換も簡単。

 

― 「澄川の家」は北側敷地で隣家も既に建っていたと聞きました。外付けブラインドを採用されたのはなぜですか?

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大きな吹き抜けのある明るいLDK

北海道は緯度43度で、ヨーロッパと比べるとまだ日照に恵まれているけど、11~12月は午後4時には夜。
ですので、大きな窓に明るい室内というニーズは昔から高くて、壁一面ほとんどガラスというこういったデザインは、非常に喜ばれます。
一転して難しいのは、夜になると窓は熱の逃げ場になる。
隣との視線の干渉がある。
それと、季節によって異なる角度で入ってくる光にどう対応するのか。
ここでは、一番外側の木製ルーバーでプライバシー保護と、大まかな日射遮蔽をやっています。
そして2層目で、外付けブラインドを使って細かな調整をする。
外付けブラインドは日射遮蔽だけでなく、プライバシーの保護、羽の角度を変えて室内を均一な明るさにするのにも使えます。
そして、3層目にトリプルガラスの断熱サッシ、その内側に夜間の※コールドドラフトを抑えるための断熱スクリーンという構成になっています。

※コールドドラフト=冷たい窓辺から発生する冷気のこと

大きな窓になればなるほど、たくさんの熱が入ってくるので、いかに可変できる遮蔽性をもたせるかが大事です。
外付けブラインドがなくていいのは1年の内でほんのわずか。
大きな窓は気持ちいいけど、冬でも細かい調整機能が欲しくなりますね。
 

― ブラインドの使い方で何か工夫されていますか?

松田さん:普段は日中家にいないので、特に工夫はしていませんが、日曜など家にいる時は、調整が自由に出来るので、キッチンに立つ妻はまめに使っています。
夏場は完全に下ろして、冬は逆にあげっぱなし。
ですが、日中家にいる人なら、かなり使うと思いますよ。
冬場でも日がまともに入ると暑いんですよ。

山本さん:太陽って暴力的でわがままで気まぐれですから!
明るい窓にして太陽熱を入れたら、シミュレーション上では暖房負荷は下がるけど、実際住んでいて快適かというとかなりハードな話です。
大きい窓って気持ちが言い分、こういう工夫とセットでないと安全に使えない。
だから設計するときヴァレーマみたいなものって本当に必要なんですよ。
 
 
 

最後に、ご案内頂いた中で印象的だった山本さんの言葉で、締めくくりたいと思います。

「全国には意外に思う人もまだまだ多いかもしれないけど、もっともっと断熱を家づくりに取り入れることで、省エネやヒートショックは自然に解決します。
それよりも家中から寒さや暑さが消えることで、間取りが自由になったり、大きな吹抜けや光に溢れる窓が作れるようになったり、故郷がもっと好きになれたりします。
身近な生活廃熱や微細な自然エネルギーを使いこなして、大切な計画換気や暖房だって簡単に解決できる。
断熱することで今まで多くの人が見過ごして来た住いの可能性に気付くことこそ本当の価値なんです。」
「ものごとを難しくするんじゃなくて簡単にする。お金が掛かるようにするんじゃなくて掛からないようにする。
今後急速に地域社会が縮小し、逼迫する財政の中で日々の暮らしに向き合わざるを得ないのも北海道のリアル。
その中でみなさんにサプライできる環境建築、良質だけど手の届く住いを作って行きたいですね。
もちろんたまにはフェラーリやランボルギーニみたいな設計も面白そうですけど(笑)」
 

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天井部分に外貼り断熱を採用し、地元の木の特色を活かしたメリハリのあるデザインに。
こちらの部屋は奥様が演奏にも使うが、断熱・気密性がよいおかげで音が漏れないので、近所からのクレームは全くない。

 

【関連サイト】
山本亜耕建築設計事務所 http://ako-a.com/index.html
澄川の家 http://ako-re.blogspot.jp/2014/11/blog-post_44.html
澄川の家ができるまで http://ako-re.blogspot.jp/2014/07/blog-post.html
飛栄建設株式会社 http://www.hiei.co.jp/

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