「地元の木材でここにしかない特別な学び舎をつくる」という強い想いのもと「優しい木の温もりに包まれた学び舎」をコンセプトとした山梨県身延町立身延中学校。山梨県産材を使用した大規模木造校舎建設プロジェクトで、内外装木部の塗装にオスモカラーをご採用いただきました。
見学をさせていただける機会に恵まれましたのでご紹介します。
身延中学校は2016年に町内4つの中学校の統合により誕生しました。
2018年に、学習環境の改善と通学環境の平準化を目的として、身延町立学校施設整備計画が策定され、町の中央に新校舎の建設が進められることとなりました。
一棟建ての校舎・体育館・柔道場とテニスコートが整備され、隣接する下山小学校と身延地区公民館下山分館を合わせて地域の文教拠点となる場所です。
目次
県産や町内産の木材がたくさん使われた木造校舎
本プロジェクトで強い想いが込められ、実現されたのが、山梨県産や身延町産の木材をふんだんに使用した、木造および一部鉄筋コンクリート造の二階建て校舎です。
象徴的なのが、身延山久遠寺(みのぶさん くおんじ)から寄贈された樹齢約100年の杉材です。
身延山久遠寺は、日蓮宗の総本山、日蓮大聖人が晩年を過ごし永眠した場所として知られており、地元の人々にとっても大切な場所です。
玄関のホールにあるこの樹齢約100年の杉の柱は、屋根の支えとなっており、9mもの高さがあります。
長い年月にわたって育まれてきた地元の身延山の木が、未来を担う子どもたちの学び舎を支えているということで、この建築に携わった方々の地元と未来を担う子どもたちを大切に想う気持ちが伝わってきます。
木の香ホールの大階段は、昇降口の正面に位置し圧倒的な存在感を放っています。
向かって右側が歩行用、左側は座面階段となっていて、生徒の集いの場であり、集会などに使用できるようになっています。
大階段踊り場床板の裏には身延山久遠寺の間伐材を利用して制作された木伝搬スピーカーが内蔵されており、実際に体験してみると、重厚感のある深みのある響きと柔らかなサウンドが心地良く届いてきました。
さらに、階段周りの手摺りは、身延町の特産である西嶋和紙を挟みこんだ摺りガラスとなっており、身延町の小学生が制作に関わっています。
【木の香(このか)ホール】と呼ばれているこの場所は、生徒が集い、語らい、発表ができる場として2層吹抜けになっており、木の温もりに包まれた学び舎を象徴するような場所であると感じました。
正面のホールだけでなく、教室や廊下の床や壁、天井にも木材が使われており、空間全体の心地良さを実現していると感じました。
構造について
この木造建築は、4棟の木造建築を鉄筋コンクリートの耐火コア3棟で区画した1時間準耐火建築物です。
木造軸組材は石膏ボードで被覆したメンブレン型と呼ばれる耐火構造を主体とし、一部、燃えしろ設計を採用、木材を表しのまま使用しています。
木造で準耐火構造にすると、石膏ボードで覆うことになるので、せっかく使った木を見せることができないというジレンマがありますが、燃えしろ設計を部分的に活用することで、木を表しにすることができ、木の温かみや潤いのある特徴的な空間が実現されています。
木材の調達と木材加工の流れ
丸太材と同様に、壁に採用された木材も地元の身延山久遠寺の間伐材です。
設計者様のお話では、当初より、身延山久遠寺から杉の丸太材を含めた間伐材を提供いただけるというお話があり、設計段階から木造・木質化する部分をあらかじめ検討して数量を把握。
身延山久遠寺が森林整備計画に基づき伐採から集材までを行い、その後の加工・保管を町で実施されたとのこと。
森林は、木材生産のほか、渇水や洪水を緩和させる水源涵養(かんよう)機能、山地災害の防止機能、二酸化炭素の吸収・貯蔵や騒音防止などの生活環境の保全機能を持っています。
健全な森林を保つため、木の成長に応じて一部を伐採し、過密にならないようにするための作業が間伐です。(※)
町産材以外の木材については施工業者様決定後に調達され、木材の調達期間をしっかり確保。
施工に間に合わせることができるかが木造木質化の大きなポイントとなる、本プロジェクトでは、一般的な木造二階建て建築物に比べて工期自体も19か月と長めに設定。
耐火コアのRC棟を先行して建築し、この間に伐採、乾燥、集成材、LVL材の制作期間が必要になるため、そのために長めの工程を確保したという設計者様のお話が印象的で、改めて本プロジェクトがよく計画されたビッグプロジェクトであったことが印象に残りました。
合板を除く主要構造材は町産材もしくは山梨県産材を利用。
身延町産材を県内工場で製材、加工、プレカット、現場搬入まで、山梨県内で完結。
ロングスパンに使われている木材に関しては、エンジニアウッドと呼ばれる、集成材やLVLは、調達は県内で、加工等は専用機械のある県外の工場で行われたとのこと。
身延町以外では主に、北杜市と富士吉田市の県有林から供給された木材を採用しているというお話でした。
オスモカラー塗装をご採用いただいた経緯
身延山久遠寺から提供された樹齢約100年の杉の丸太柱や、天井、軒天、腰壁の仕上材料は、歩留まりを高めるために等級や色味(白、赤、黒)に関わらず全て無駄なく利用されています。
これにより設計段階から、できるだけ、木材による表情の差を抑え、統一感を持たせたい、全体的にやわらかい印象にして空間に調和させたいという設計様のお考えがございました。
オスモ&エーデルとしては、今まで蓄積してきた知見も踏まえそういったご要望に合った色をご提案させていただきました。
◎外部軒天・柱:ウッドステインプロテクター 733ヘムロックファーと701外装用クリアープラスつや消し混合色
◎室内腰壁、柱全部、天井の一部と木の香ホール大階段:
ウッドワックス 3111ホワイトスプルース3362 フロア-クリアーエクスプレス つや消し混合色
図書室
図書室は普通教室と同じフロアに配置されており、個別学習やグループ学習等の様々な学習形態に対応できるようになっています。
誰もが気軽に立ち寄り本を手に取りやすく調べ学習を促す平湯式モデルの図書家具が採用されている点も特徴的です。
柔道場
身延町は柔道も盛んということで、身延中学校の柔道場は地域のみなさんにも開放されるそうです。
この柔道場には、東京2020オリンピック・パラリンピックのレガシー材も活用されています。
これは、大会の際に使用された木材を、後世に残る形で再利用し、持続可能な社会づくりに貢献するための取り組みで、大会中に使われた木材や建材を、大会後に学校や公共施設、地域の建物などにリサイクルして再利用するものです。
これらの木材は全国から提供され、オリンピック・パラリンピックの会場の建設や装飾に使用されましたが、特に、選手村のプラザに使用された木材は、大会後に提供元である全国の自治体に返還され、地域のシンボルとなる建物や施設に使用されるなど、大会の記憶や意義を未来につなげる活動です。
身延町では山梨県産材のLVLを譲り受け、身延中学校の柔道場に活用されています。
最後に・・・
建築は単なる機能的な空間の提供にとどまらず、その場所に関わる人々の心に長く刻まれる存在となります。
今回ご紹介した山梨県身延町立身延中学校は、利便性や機能性の良さ、デザインの美しさを示すだけでなく、この建築がいかに地域に根差し、そこを利用する子どもたちや地域の人々への想いが込められて生み出されたものであるかを感じる建築だと思いました。
また、「木材利用は脱炭素社会実現に向けて欠かすことができない重要な手法であると考えられています。
これからの公共施設としてのあり方、木造木質化の推進、そしてその先の脱炭素社会実現に向けて、公共施設に携わる技術者としては、そうした社会課題の解決に取り組んで参りたい」という設計者様のお話が印象的でした。
私たちも、木材保護塗料と木のフローリングを扱うものとして、大変共感するお話でした。
※間伐について:
間伐は、森林の管理手法の一つで、成長し過ぎた木々や密集している木を適切に間引くことで、森林の健康と持続的な成長を促進する作業です。間伐を行うことで、残った木々に十分な光や栄養が行き渡り、健全な森林を維持できます。また、これにより木々の病害虫を防ぎ、強風や雪害などの自然災害に対する抵抗力が強まります。
※森林の水源涵養機能について:
森林が持つ重要な役割の一つ。
■土壌の水分保持:森林の土壌はスポンジのような役割を果たし、雨水を吸収し、ゆっくりと地下水へ浸透させます。
これにより、雨水が急激に河川に流れ込むのを防ぎ、洪水の発生を抑制します。また、乾燥した時期でも地下水から水を供給できるため、渇水のリスクを減らします。
■水質の浄化:森林の土壌や植物は、雨水に含まれる汚染物質や泥などを吸収・分解し、きれいな水を保つ役割も担っています。
◎山梨県身延町立身延中学校HP
http://www.minobu-chu.ed.jp/
◎株式会社馬場設計HP
https://babasekkei.co.jp/
◎オスモカラー
外装用 ウッドステインプロテクター
https://osmo-edel.jp/osmocolor_lineup/osmocolorwoodstainprotector/
内装 着色 ウッドワックス
https://osmo-edel.jp/osmocolor_lineup/osmocolorwoodwax/
内装 床用 フロア-クリアー
https://osmo-edel.jp/osmocolor_lineup/osmocolor3032floorclearwithgloss/