長く快適に過ごせる家を建てたいと考えている方から選ばれているのが、パッシブハウスです。機能性にこだわっている方から特に人気なのは、パッシブハウスが厳しい基準を満たしている家であることが関係しています。

ここでは「どのような基準が設定されているのか知りたい」と考えている方のため、パッシブハウスの基準や、実際に家を建てる際に気になる建築費、費用対効果などについて紹介します。この記事を読むことによってパッシブハウスについての理解を深められるので、ぜひ参考にしてみてください。

パッシブハウスとは?

パッシブハウスは、環境大国であるドイツ発の高断熱高気密住宅です。機能性を高めるための設備をあれこれ導入するのではなく、設計やデザインなどにこだわることにより自然エネルギーを活用して快適な空間を目指しています。
例えば、デザインはもちろんのこと、光熱費や暮らしやすさ、1年を通しての快適さなどにこだわりたいと考えている方にぴったりです。

パッシブハウスの3つの基準

パッシブハウスを名乗るためには、以下の3つの基準をすべて満たしていなければなりません。

◆パッシブハウスで満たすべき基準

  • 年間の冷暖房負荷が各15kWh/m2以下であること
  • 家電も含む一次エネルギー消費量が120kWh/m2以下であること
  • 気密性能として、50Paの加圧時の漏気回数が0.6回以下であること

参考:パッシブハウス・ジャパン 事務局:便利ツール

上記の基準を満たしているパッシブハウスであれば、冷暖房機器などを使用しなくても1年を通して快適に過ごしやすいです。冷暖房機器は補助的な役割として使用する形で済むので、省エネ効果も大きいといえます。

基準を満たしていれば、認定を受けることによってパッシブハウスを名乗れます。しかし、建物の省エネルギー基準について定めたものであることから難易度は高く、これらをすべて満たすのは簡単なことではありません。
基準を満たさないものの、パッシブハウスをもとに作られた「パッシブ設計」や「パッシブ住宅」などもあります。

パッシブハウスの他の基準

パッシブハウスとして認められための基準について紹介しました。続いては、これらの基準を満たすために必要になってくる構造や性能などについて解説します。

断熱材の性能

パッシブハウスにおいて、省エネ性能を高めるのに欠かせないのが、断熱材です。
そのため、高品質な断熱材を選択することになります。

例えば、一般的な戸建て住宅の場合、グラスウールを選択するのであれば100~150mm程度で問題ありません。ですが、パッシブハウスで定められている基準を満たそうと考えた場合、300mm以上の厚みが求められることになります。
外壁や内壁の厚さなども含め、十分なスペースを確保しなければなりません。

熱回収率

熱回収率が75%以上の熱交換換気システムを設置する必要があります。一般的な換気の場合、冬場は冷たい空気を取り入れて室内の暖かい空気と吐き出すため、効率が良いとはいえません。
熱交換換気システムは、この熱のロスを抑えるためのシステムです。

窓の枚数

窓は3重が基本です。家の中でも特に熱が逃げやすい窓をしっかり断熱することにより、夏は暑さを感じにくく、冬は暖かさを感じられるような室内環境が目指せます。

給湯方法

パッシブハウスの基準を満たすためには、給湯方法についても検討が必要です。パッシブハウスはドイツ発祥の考え方なのですが、ドイツは日本と比較すると給湯関連のエネルギー消費量が少ないです。日本は昔から湯船につかる文化があることから、給湯関連のエネルギー消費量が多くなりやすいといえます。

パッシブハウスは「家電も含む一次エネルギー消費量が120kWh/m2以下であること」と定められているため、条件を満たすためにはエネルギー消費を抑えられる給湯方法を選択することが重要です。

パッシブハウスの建設費

パッシブハウスとして認められる住宅は定められた厳しい基準をクリアしなければならないことから、高額になりやすいです。具体的な建設費についてですが、1~2割ほど高くなると考えておくと良いでしょう。

例えば、一般的な構造の2,500万円で建てられる住宅があったとします。これをパッシブハウスにしようと考えた場合、2,750~3,000万円ほどの費用がかかることになります。

ただ、費用については工務店や設計事務所によって設定が大きく異なるので、一概にはいえません。さらに安く抑えられるケースもあれば、高くついてしまうこともあります。

パッシブハウスの費用対効果について

パッシブハウスは、一般的な住宅を建てるのと比較して、1~2割ほど高額になることから費用対効果を不安に感じてしまう方もいるでしょう。
ですが、確かに初期費用といえる建設費用は高くつくものの、建築後にかかる光熱費などのランニングコストは抑えられます。そのため、長く暮らすほど費用対効果は高まるといえるでしょう。

日本に実在するパッシブハウス

日本ではまだまだパッシブハウスとして認められている住宅が少ないことから、イメージが湧かない方もいるのではないでしょうか。そこで、日本において実在しているパッシブハウスを紹介していきます。

鎌倉パッシブハウス

2009年に神奈川県鎌倉市に建てられた戸建ての一般住宅です。パッシブハウスの国内認定第一号でもあります。
一次エネルギー消費量は106.74kWh/m2、年間暖房需要は14.86kWh/m2、冷房需要は21.32kWh/m2です。28.15坪の延べ床面積がありますが、小さなルームエアコン1台で家全体の温度を調整可能です。敷地面積は35.92坪とそれほど広くありませんが、屋上全体をウッドデッキに有効活用しました。

参考:パッシブハウス・ジャパン 事務局:鎌倉パッシブハウス

参考:KEY ARCHITECTS:鎌倉パッシブハウス

軽井沢のパッシブハウス

2012年に長野県北佐久郡軽井沢町に建てられた一般戸建て住宅です。軽井沢町の中心部に建てられました。
一次エネルギー消費量が53.69kWh/m2、一次エネルギー消費量太陽光発電は-25.72kWh/m2です。年間暖房重要は13.85kWh/m2、冷房需要は3.75kWh/m2となっています。
ヒートポンプや薪ストーブによる床暖房によって消費エネルギーを抑えています。

参考:パッシブハウス・ジャパン 事務局:軽井沢パッシブハウス

参考(英語サイト):Passive House Database

オホーツク・スロービレッジ

道東の網走市内の事例です。厳しい寒さに対応するため、機能性に優れたパッシブハウスが選択されました。パッシブハウスであれば寒い地域でも暖かく過ごすための工夫が満載です。

参考:北海道住宅新聞社:網走にパッシブハウスタウン

省エネ住宅の専門用語

省エネ住宅について調べていると、さまざまな専門用語が出てきます。自分が本当に求めている住宅を建てるためには、それぞれの用語について正しく理解しておかなければなりません。
代表的な用語の定義や、基準、条件などについて紹介していきます。

UA値

UA値(ユーエー値)とは、外皮平均熱貫流率のことをいいます。つまり、外皮全体で計算した場合、家の外へ逃げる熱量がどれくらいかを示す値です。

UA値が高い家は熱が逃げやすいことになるので、冬場などはすぐに家の中が冷えてしまいます。暖房性能が低いとも言えるので、省エネ住宅を目指すためにはUA値を小さく抑えることが重要です。

国土交通省が定めている省エネ住宅の最低UA値基準、は0.87です。これはあくまで最低限に満たしておくべき値ということもあり、UA値が0.87あれば断熱性能が高いとはいえません。
また、全国的にみると最低値は0.87なのですが、時期によって違いが大きいです。例えば、寒さが激しい北海道などの場合は0.46と定められています。

参考:(PDF)国土交通省:【参考】住宅における外皮性能[PDF]

ηA値

ηA値(イーターエー値)とは、住宅全体の日射取得量を屋根または天井、帖、壁、床、窓などの外皮の合計面積によって割り出す値です。冷房期の平均日射熱取得率のことであり、数値が小さいほど、日射が入りにくいことを意味しています。
夏場は日射が入ると室温が上昇してしまうため、冷房効率が悪くなってしまうことが多いです。ηA値が低ければ室温が上昇しにくいので、冷房の使用を抑えられるでしょう。

冷暖房需要

冷暖房需要とは、快適な住まい温度を保つには、冷房や暖房でどの程度のエネルギー量を必要とするのか示したものです。世界的に見ると代表的な住宅性能基準として採用されている数値なのですが、日本においてはまだ基準に含まれていません。

ZEH

ZEH(ゼッチ)とは、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの頭文字を略したものです。
生活するにあたり、家庭ではさまざまなエネルギーを使用することになります。ZEHは、太陽光発電などでエネルギーを創ることにより、使用するエネルギーを補い、最終的には1年間で消費するエネルギー量がゼロになる家です。
UA値について前述しましたが、ZEHでは最低限のものとは異なる基準が定められています。

ZEH住宅として認められるためには、以下の基準をすべて満たしている必要があります。

◆ZEHの基準

  • 省エネ基準より強化した高断熱基準を持つこと
  • 再生可能エネルギー等を除き、基準一次エネルギー消費量から20%以上の一次エネルギー消費量を削減
  • 再生可能エネルギーを導入(容量については不問)
  • 再生可能エネルギー等を加えて、基準一次エネルギー消費量から100%以上の一次エネルギー消費量削減

省エネ基準より強化した高断熱基準については、地域によって基準が異なります。例えば、札幌などは0.4、盛岡などは0.5、東京などは0.6です。

参考:(PDF)国土交通省:第1回 脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会[PDF]

参考:(PDF)国土交通省:ZEHの定義(改定版)<戸建住宅>[PDF]

LCCM住宅

ライフ・サイクル・カーボン・マイナスの頭文字を略したものです。建設時から運用時、廃棄時などにおいて省CO2に取り組みます。さらに、再生可能エネルギーの創出なども利用して住宅のライフサイクルを通じ、CO2収支をマイナスにする住宅です。地球環境に配慮した住宅ともいえます。

パッシブハウスの基準は厳しい

いかがだったでしょうか。パッシブハウスとして認定されるために満たさなければならない基準などについて紹介しました。条件が厳しいこともあり、日本ではなかなか普及していませんが、非常に高性能の住宅が目指せます。
住宅の省エネ性能を高めたいと考えているのであれば、オスモ&エーデルで取り扱っている省エネ関連商品もぜひチェックしてみてください。冷房効果アップに役立つ商品なども用意しています。


参考記事:なぜ戸建ての二階は暑いのか?原因と対策方法をご紹介!