木は、自然の恵み、地球からのギフト。
木は自然に存在しているものであり、自然に還る素材です。
そういった意味で、エコフレンドリーで地球環境にもやさしい素材です。
その他にも、木の触り心地に癒されたり、木の調湿機能が生かされた空間で快適に過ごすことができたり、木が太陽や照明の光をやわらげてくれるので適度な陰影を感じることができたり・・・
住空間や建築に木を使うと、そこで過ごす私たちにとって良いことがたくさんあります。
今回は、「木の触り心地について」、山形大学の野々村美宗教授との共同研究の内容をまじえて、お話をうかがいました。

 

目次

人が感じる触り心地について

私たちは、普段から、身の回りのいろいろなものに触れています。
例えば、洋服を買おうとする時のことを思い出してみてください。
いいなと思った洋服に触れてみて、触り心地を確認して、デザインや価格だけでなく、触り心地の良い、悪いも、選択する時の基準の一つにしていませんか?
私たちは、日常的に、身の回りのものに触れて、無意識のうちに触り心地のより良いものを選択していると思います。

まず、人が感じる触り心地=触覚について教えてください。

【野々村教授】
人間の感覚の世界でいうと、普段の生活の中では、視覚の影響力がとても強いです。
ですが、実は、触覚の情報も意識の下のレベル=まさに無意識のレベルでいろいろと影響しているのではないかと言われています。
触覚というのは無意識だけれども影響が大きいということなんですね。

 

木の触り心地とオスモカラー塗装木材表面の触り心地について

木の触り心地の良さというのは、数ある木の魅力のうちの一つです。
そして、自然の植物油由来の自然塗料オスモカラーを塗装していただくと、この木の魅力である触り心地の良さを生かすことができるという仮説のもと、山形大学の野々村美宗教授と共同で木材表面の触り心地に関する研究を実施しました。

■「植物油脂によって被覆された木材の摩擦に関する研究」研究内容

正弦運動摩擦評価装置(=人の触り心地を計測することを目的とした装置)を用いて、

 ①植物油(オスモカラー)が塗装された木材
 ②ウレタン塗装された木材、
 ③無塗装の木材

それぞれの表面の動摩擦係数を計測。

正弦運動摩擦評価装置(=人の触り心地を計測することを目的とした装置)

結果:① 
■ 植物油が塗装された木材表面の動摩擦係数は0.39で、3つの木材の中で最低。
■ ウレタン塗装された木材表面の動摩擦係数は0.75で最大。
という結果が観察されました。

 

結果:➁
また、摩擦係数が小さいだけでなく、動摩擦過程における変動が小さい=触っている間の変動が小さい という結果も観察されました。

今回の研究結果はどのようなことを意味するのでしょうか?

【野々村教授】
動摩擦係数が小さいということ
② 触っている間の変動が小さい

という2つ観察結果から、
植物油(オスモカラー)を塗装した木材表面がなめらかであるということになり、「植物油由来塗料の塗装は、木材の触感を滑らかにするための有効な手段である」と結論づけられました。

ウレタン塗装の場合、触っている間の変動があるということですが、これはどのようなことを意味するのでしょうか?

【野々村教授】
変動があるということは、きしむ感じがあるという意味です。
最初の滑り出しのところできゅっと引っかかる、触っている間にもギザギザと変動する様子が観察され、人は、「引っかかるな」とか「きしむな」と感じているということです。
きしみ感というとわかりやすいかなと思います。
植物油を塗装した木材では、その、「きしみ感」がほとんどないということです。

なぜこのような結果が観察されたと思われますか?

【野々村教授】
オスモカラー塗装の木材表面は、本来の木表面の凹凸感が残っています。
そして、植物油脂が、表面エネルギーという物と物をくっつけようとする力を小さくし、その結果、表面がなめらかになるということなんです。

ウレタン塗装の場合は、表面の凸凹がなく、ウレタン塗装に覆われていて完全にフラットな状態であることがわかります。
表面が鏡のように平らになり、ペタッとくっつくような感触ですね。

野々村教授は、もともと化粧品の研究開発をされていたご経歴がおありで、化粧品と人の肌との触り心地や「しっとり感」に関する研究をされていらっしゃいます。
今回、木と木の塗装仕上げ(植物油ベースのオイル塗装仕上げと木の表面に膜をはるウレタン塗装)と人が感じる肌触りに関する研究をしていただいて、何か違いや面白いと感じられた点、新しい発見などはありましたでしょうか?

【野々村教授】
木の触り心地について研究するのは今回が初めてでしたが、まず取り組んでみる前から、面白そうだなと思いました。
また、ちょうど少し前に、「ぬくもり」というのは何か?という研究をしていたんです。

人間が、特に日本人がなんですが好む触覚に関する言葉というのがあります。
例えば、化粧品業界ですと、「しっとり」「なめらか」「すべすべ」「さらさら」といった言葉です。だいたい、化粧品のCMなどでキャッチコピーとして使われている言葉ですね。

では、他の分野でどのような表現があるかということを考えますと、「ぬくもり」という言葉があります。
単純に、「あたたかい」というのと、「ぬくもり」っていうのは違うんです。
じゃあ、何が違うのか。
例えば、あるサンプルに触れた時に、
「これはあたたかいですか?冷たいですか?」
と聞くのと、
「ぬくもりを感じますか?感じませんか?」
と聞くのとでは結果が違ってくるんです。
そういう、「ぬくもり」に関する研究をしていました。

「ぬくもり」といえば、木だよね、と。

今回の結果に関して、何かお感じになられたことはありますか?

塗装というと、ウレタン塗装のような、膜を作って、木の表面を完全に覆うものをイメージしていました。
ただ、今回実験をして、オスモカラーは、木の凸凹が残っている。そして、数値でみると、無塗装の木よりは凸凹感はなくなっているものの、それでも凸凹感が残っています。こういう塗装も世の中にはあるのだということが新鮮な驚きでした。
そして、触覚だけでなく、目で見ても、もともとの木の凹凸感が残っていますね。
無塗装の木と比較すれば、もちろんどちらが無塗装でどちらがオスモカラー塗装かわかると思うのですが、単体でそれぞれ見たら、どちらが無塗装でどちらがオスモカラー塗装かわからないくらいのレベルだと思うので、面白いと思いました。
今回の研究は、触覚だけでなく、視覚も含めて木の魅力、面白さを感じる機会になりました。

さきほど、触覚は無意識に感じている感覚だということを申し上げましたが、人間は、木の魅力についても無意識に感じ取っているんじゃないかと思います。
人には、「なんとなくいい」とか「なんとなく好き」、「なんとなく落ち着く」という感覚があると思うんですよね。
「なんとなく」ってすごく大事なのかなと。木の魅力って、おそらく、意識化されないで、例えば、実際に木でできた空間で暮らしてみて、「なんとなくいいな」とか「なんとなくリラックスできるな」と感じるんではないでしょうか。木というのは、そういう人のなんとなくの感覚に、働きかけるのかなという気がしますね。

オスモカラー塗装した木材表面の触り心地は化粧品を使った時に感じる「しっとり感」とはまた違う触感なのでしょうか?

違いますね。「しっとり感」というのは、化粧品を使った時に感じる表現で、木の触り心地の場合ですと、「なめらか」という表現になると思います。
化粧品とお肌や髪の毛の触り心地の話をする時は、「しっとり」という表現がキーワードなんですが、木には、「なめらか」という木ならではの触り心地の感覚があるように思います。

人は、木の魅力を、触覚と視覚の両方で感じ取っていると言えそうですね。
触覚と視覚の両方で木が使われている空間にぬくもりを感じるとか、木のフローリングはなんとなくいいと感じるということのようですね。

今回の試験を通じて、無塗装の木とオスモカラー塗装の木の表面の触り心地は、無塗装の木と比較しても遜色ないと言えると思われますか?

それは言えると思います。
というのは、まず見た目についてなんですが、オスモカラー塗装は、無塗装とそれほど変わらないという印象です。ツヤの違い、光沢のあるなしが関係していると思います。
オスモカラー塗装は表面の凸凹感があるおかげで光沢感が抑えられているのではないでしょうか。
今回の研究では、見た目も観察していまして、それがグロス値で確認できます。グロス値がオスモカラーは無塗装に近い値です。
つまり、触った時のなめらかさが無塗装の木に近いということと、見た目のツヤ感も無塗装に近く自然な感じの印象を受けるのかなと思います。

最初にオーク材で本研究をしましたが、現在は、杉やヒノキなどの針葉樹で研究を継続中です。
現在も研究を継続してくださっている、野々村教授と関根涼太さん。

 

最後に・・・

野々村教授とのお話を通じて、
「触れるという触覚も含めて、人は無意識化でいろいろと感じ取っている」
「木の魅力は人のなんとなく好きやなんとなく心地いいという感覚に働きかけるところだ」
というお話が印象的でした。

山形大学工学部がある山形県米沢市は、上杉謙信を初代とする『上杉家』に由来する名所が多い、歴史の面影が数多く残る城下町。
こちらは、上杉家御廟(米沢藩主上杉家墓所)。
上杉家の歴代藩主の廟が並置されており、国指定史跡として登録されています。
厳かな雰囲気が漂う墓所で、立派な杉並木に囲まれていました。
木の魅力について考えた後に訪れると、さらに感慨深い思いがしました。

 

【野々村美宗教授プロフィール】
山形大学大学院理工学研究科教授。博士(工学)。専門:物理化学、界面化学、化粧品学。1996年慶應義塾大学大学院博士後期課程修了後、花王株式会社に入社し、化粧品・身体洗浄料の商品開発を担当。2007年山形大学准教授、2017年4月より現職。これまでに、新しいエマルション・泡製剤だけでなく、生体表面モデル、触覚センシングシステムの開発にも携わり、化粧品に関連する幅広い分野の研究を行っている。

 

山形大学工学部 野々村研究室HPはこちら
http://nonomura.yz.yamagata-u.ac.jp/