2017年2月9日、秋田県能代市の西方設計さんへ行ってきました。
西方設計は、夏涼しく冬暖かい、健康で快適な家をつくり続けていらっしゃいます。
その西方さんが今まで積み上げられてきた家づくりの工夫の粋を結集した、モデルハウスを新築。
この度、新しい「西方設計の家」をご紹介いただき、西方さんご本人と娘さんで設計者の響子さんにもお話をうかがいました。

目次

この度、こちらの家を建築された目的、目指したことなどを教えてください。

この家のテーマは、
(1) 1番は死なないための家をつくることです。
(2) 次にいかに簡素につくるかを目指しました。

1番目の「死なないための家」というのがちょっとびっくりしてしまったのですが、どういうことですか?

今や、ヒートショックによる死亡件数は交通事故による死亡件数よりも多いと言われています。
秋田県内や能代市内は、全国の状況よりもっと深刻で、私の身近でもヒートショックで亡くなる方がいらっしゃいました。
ここ能代は、冬寒い場所ですから、暖かい家をつくることは生死に関わることなんです。ヒートショックによる死亡率は65歳を超えると一気に上がりますし。最近私も歳を重ねてきましたので、すごく気になるところなんです。

なるほど。具体的なポイントはどのようなことですか。

まずは、全室暖房(全館暖房)です。
この家は、2階建てで、2.5坪分吹き抜けがあるので、実質の延べ床面積は、37.5坪です。
この空間を、床下に設置した8~10畳用のエアコン1台で暖めています。

え?本当にこのエアコン1台だけですか?(ちょっと信じられなくて何度もきいてしまいました)

能代の冬は日が差すことが少なく、日が差したと思ったらすぐに曇ったりという具合ですが、1日のうちで、合計15分~30分程度日が差せば、暖房を消しても大丈夫です。
(実際、この日も日が差したり曇ったりだったのですが、途中で暑くなってきたので暖房を消しました)

現在日本の住宅は、局所暖房の考え方が通常ですが、全室暖房にして、家のどこにいても暖かいと感じる、温度差をなくすということがポイントです。
温度差はだいたい0.5℃前後になるようになっています。
温度差があることがヒートショックの原因になりますし、結露の原因にもなります。
温度差をなくすために、個室化をせず、よりオープンなつくりにする、吹き抜けを大きくとることもポイントです。

次にもうひとつのテーマの「いかに簡素につくるか」という点についても教えてください。

例えば、この家では熱交換機は使っていません。
床下に吸気口が2つ、屋根裏に排気口が2つあって、自然と空気が入って重力差で上に流れて外へ出ていくというように、自然換気ができるようなつくりになっています。

間取りも生活しやすいようにすっきりとさせました。

それから、庇も全くありません。
庇のお金を外付けブラインドのヴァレーマにあてました。
庇の目的は、
①壁を風雨から守る
②日射を遮蔽するといったことがあります。
が、外壁は30~40年フリーメンテナンスの耐久性のある外壁にしたので、壁を守る必要がありません。
日射はヴァレーマで調整すればよいので、庇の存在価値がないわけです。
隣にある現在の自宅は、34年前に建てたものですが、庇が4尺もあります。
夏はもちろん日射遮蔽になっていいんですけど、逆に冬は、太陽の光が入らなくて暗くなってしまうわけですよ。

一般的に日射遮蔽をしようと考えた時に、庇を出せばいいじゃないかという考えがあると思うんですけど・・・

でも、庇だと調整はできないですからね。
外付けブラインドであれば、調整ができますよね。
しかも、庇だと角度の低い東からの朝陽や西日は防ぐことができないですよね。
それと、みなさん、窓を大きくすると輝度が高すぎませんか(眩しくなりすぎませんか)っておっしゃるんですが、外付けブラインドで調整できますから、大丈夫です。
日本海側の冬は、曇天が多いので、できるだけ太陽光を取り入れたいと考えます。
たまに日が差すと眩しくなりますが、ブラインドで調整できるので、外付けブラインドは冬場も役立ちます。

太陽の光を入れたいなと思ったら、スラット(羽根)の角度を上向きにして、眩しすぎるなと思ったら、少し羽根の角度を調整すればいいということですよね。

そういうことです。好きなように微調整ができるわけですよ。

「外付けブラインドは羽根の角度を調節できるのがいいんだよね」と言って操作してくださる西方さん

西方さんの事務所では、以前、緑のカーテンを採用されていたとお聞きしました。
緑のカーテンも省エネ方法の一つだと思うのですが、その効果など、緑のカーテンに関するエピソードをお聞かせください。

緑のカーテンは、日射遮蔽の効果があって、室内側からの眺めもとても良くて風情があっていいですよ。
ただ、手入れが大変なのと、十分な日射遮蔽効果が得られるくらいまで育つタイミングと本当に暑い時期がどうしてもずれてしまうんですよね。
そこが難しいところです。

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断熱はどうなっていますか?

屋根は400mm、壁は360mmの断熱材が入っています。

400mmの屋根の断熱の模型

この断熱は、日本ではかなり厚いしっかりとした断熱ですよね?通常の断熱の倍くらいでしょうか?

そうですね。
断熱は、50mm~100mmまではぐーっと燃費が良くなって、300mmくらいまでは効果が出ますから、地域に合った、必要な断熱をすることは大事です。

床下は、オープンな基礎にするというのもポイントです。
立ち上がりの基礎だと、床下に設置したエアコンの暖かい空気が全体に流れなくなってしまうので、温度むらができてしまうんです。
床下の断熱材は、EPSパフォームガードを施工しています。

続いて窓についてはどうですか。

まず、大窓は暖房機だと考えています。
南面に窓を大きくとり、太陽の光を取り入れて暖かくすることができます。
窓は、ドイツから部材を輸入し、能代の地元の工場で組み立てた超高性能アルミ窓です。

窓の近くは冷気を感じて悩んでいらっしゃるお宅もあると思うんですが、ここは本当に全く冷たさを感じないですね。(実際に、窓に張り付いてみましたが、全然寒く感じなかったです)

窓は特殊なトリプルガラスを使っています。
ガラス自体の断熱性能が高いから、寒くないです。

西方さんが、ほら、と温度計を持ってきてくれました

床についてはどうですか。床暖房をしているわけではないですよね?でも、足元もとても暖かいですね。

床は秋田杉のフローリングです。
床下の断熱と床下エアコンで、床下からしっかり暖めているので暖かいんです。
しかも、床暖房のような体温よりも高いような高温ではなく、23~24℃くらいで、熱過ぎないというのもポイントです。
直接接するところは25℃以上あると人体に間接的にダメージを与えるということで、北欧などでも、床暖房や壁暖房をするとしても25℃以下の低温になっています。
この木の床は、裸足になると、すごく気持ちがいいですよ。
同じ表面温度でも、木は暖かく感じるんです。
例えば、トイレは汚れ防止のためにセラミックパネルのタイルを張っているんですが、温度を測ればいっしょなんですけど、タイルだと冷たく感じるんですよ。

最後に、西方設計が目指している、住まいづくりとはどのようなものか教えてください。

躯体性能が十分であること。
100年住むことができる、丈夫な家づくりを目指しています。
断熱、温熱、耐震、耐火という観点で十分な性能の家づくり。
当たり前のことなんですが、日本はまだまだそれが十分ではない住宅があります。
住宅は、社会資本だと考えているので、社会資本として、100年もつ家づくりを目指しています。

「西方設計の家」を訪問して、一番の驚きと感動は、建物内部の暖かさと居心地の良さ。
今年の冬は特に雪が多く、寒いというお話しでしたが、この日の外気温2℃に対して、室内温度は24℃。
寒冷地に限らず、ご自宅が寒く、夏は暑いと感じていたり、結露に困っていらっしゃる方もけっこう多いのが日本の住宅事情の現状ではないでしょうか。
必要に応じて断熱や気密を良くして、太陽の光を取り入れたり、コントロールしたり、そういった工夫を重ねることが、健康で快適な家づくりにつながると実感する訪問となりました。

西方さんが、ドイツで運命的に出会った、ご本人そっくりなお人形と

西方設計のホームページはこちら:http://www.nisikata.co.jp/index.html