2017年1月19日、ミュンヘン郊外にある保育園と幼稚園を訪ねました。
施設を設計したHirner&riehl architekten社より、Mattias Marschner(マルシュナー)氏が案内をしてくださいました。
写真はエントランスで建物の概要を説明してくださるマルシュナーさんです。
Hirner&riehl architekten社は30名ほどの建築士が在籍しており、主に地元の公共物件を手がけている設計事務所です。
目次
最初に訪れたのは「Kinderhaus Dietersheim 」(ディータースハイムの子供の家)
2013 年に竣工した保育所です。
ドイツでは現在、学童保育を含めたKITA(全日制保育施設)の整備が進められており、郊外の人口増加地域では、保育所が新築されています。
この施設もそのひとつで、0-3歳児の保育園、3-6歳児の幼稚園、そして学童保育を備えた建物として設計されています。
構造は木造で、CLTを採用した建物。
建物をプランする際にこだわったのは、「わかりやすさ」。
この施設は「子供のための家」なので、自分がどこに行くべきか、自分の居場所はどこなのか、子供たちが直感的に理解できるよう設計されました。
また、将来的にこの「子供のための家」を中心とした街の開発が計画されており、将来作られる広場に向かって施設が開放的なものとなるように計画したそうです。
木を使うことにもこだわっています。
それは、子供は実際に経験することによって理解できるという考え方に基づいているから。
木は子供たちにとって身近な素材で、「わかりやすい」とマルシュナー氏。
そして、木本来のさわり心地やにおいを感じられるよう、オイルによる塗装で仕上げています。
室内はスプルース、外壁にはモミが使われていました。
子供たちのお昼寝部屋では、ドイツ語で「チルベ」という松を壁に使用。
チルベには独特の香りがあります。
リラックス効果が高く、睡眠の質を良くするそうですよ。
建物の暖房は、基礎コンクリートにヒーティングシステムを埋め込む方式を採用。
高い位置に窓を設置することによって、夏場は自然換気で熱い空気が出て行きます。
また大きな庇を設けて、太陽高度の高い時は庇で日射の流入を遮り、低い時には軒先のスクリーンやカーテンを利用して日射遮蔽をしています。
日射遮蔽の様子。
ドイツでは窓の外で行うのが普通。
ちなみに、この建物は市による運営なので、利用料も約200~250EUR/月とお安いそうです。(私立の場合だと、800EUR/月もかかるんですって!)
http://hirnerundriehl.de/kinderhaus-dietersheim.html
2つめに訪れたのは「kindertagesstatee Erding」(エルディングの全日制保育施設)
こちらは、2014年竣工の施設です。
1軒目と異なり、昔ながらの伝統的なドイツの家のような造りを子供たちに伝えるために、切妻屋根を二つ並べたような建物形状になっています。
コンセプトは1軒目と同じだそうですが、より「わかりやすく」、より「建築」を体感しやすく。
この建物は、地域で10年前に整備された地熱を利用しています。
さらにソーラーパネルを設置することでエネルギーを創っており、消費エネルギーより生産エネルギーが多い「プラスエネルギーハウス」になっています。
ドイツでは多い全館空調システムを採用しています。
夏場にはエアコンは使わず、高い位置に設置した窓を利用した自然換気と、外部の日射遮蔽で過ごすとのこと。
この施設のあるエリアで今後開発を進める際には、同じような切り妻屋根の建物を建てていく予定とのことで、地域の景観に根ざした新築となっています。
手前の背の低い部分は子供たちが使います。
各教室ごとに必ずキッチンが設置されていて、子供たちが使える背の低いキッチンありました。
自分たちで自分の使ったものを洗ったり、お菓子を作ったり、子供たちが本当に自分の家にいるように過ごす、ということを大事にしています。
内装にはもちろん、木がたくさん使われていましたよ!
最後に現在建設中の小学校(木造、CLT)を見せてもらうことが出来ました。
この日は、ちょうど日本で言う棟上げの日。
なんと!ドイツにも上棟式があるそうです。
私たちが到着した時には式は終わっており、職人さんたちは既にレストランに移動して、お祝いをしているということでした。
この小学校現場で、木を使うことにこだわるもうひとつの理由を聞かせて頂きました。
ミュンヘンを擁するバイエルン州は、ドイツ国土に占める面積も大きく産業も多いことから、エネルギー消費の割合が大きいのです。
そこで、CO2削減に貢献できる木造の建物を建築することが、消費エネルギーを減らすという社会的責任を果たすことにもつながります。
また、この学校を建設する土地には、地域の方々が大切にしている大木が何本か植わっているため、それを伐らずにすむように建物の配置を考えたというお話も。
自然を大切にするドイツ人らしいですね。