パッシブハウスコンサルタント 渡邉さん

岐阜県恵那市に拠点を構える建材会社である「金子建築工業」さん。
同社が立ち上げた建築部は、「楽園住宅」というコンセプトの元、最先端の省エネ住宅に取り組み、省エネ住宅建築のトップランナーとして走り続けています。
その建築部に所属する日本人2人目のパッシブハウスコンサルタント、渡邉崇充さんに、今回は省エネ住宅について教えて頂きました。
ドイツ・パッシブハウス研究所より「パッシブハウス」の認定を取得を受けた、同社橋本英明さんのご自宅を訪問。
お施主様でもある橋本さんにも、お話を伺いました。

ドイツのパッシブハウス研究所より、パッシブハウス認定を受けた住宅

金子建築工業 建築部が普段されていらっしゃるお仕事を、ご紹介ください。

金子建築工業では新築・リフォーム、大型の改修などを含め、年間で10数棟ほど手がけています。
基本的には、会社の企業理念として安心・安全な家、というのがありまして、耐震性能に優れ(耐震等級3新住協のQ1を基本性能)、地震に強くて、快適で省エネな家を作っています。
特に、今回のテーマにもなります、パッシブ設計では、自然のエネルギーを最大限に活かした住宅設計を行ってます。
更につきつめると、パッシブ設計では建物の気密性が大切です。
住宅をつくって断熱材を詰め込んでも、隙間がスカスカだと意味がないので、施工する大工さんも自社の職人を使い、設計から施工まで一貫した体制でやっています。

金子建築工業さんは、日本の省エネ住宅のトップランナーでいらっしゃいますが、そもそもは材木屋からスタートされていますよね。
木を使う、または素材にこだわる、という意識はあったと思いますが、省エネ住宅に大きく舵をきられたきっかけとは何だったのでしょうか?

現在の社長が東京生まれ東京育ちなのですが、40年前に岐阜県に移住をしてきたのです。
その時、家の中でもコップの水が凍るほどの寒さだったそうです。(恵那市の街中で、冬の外気温はマイナス7~8度、マイナス15度の日も)。
私は経験したことはありませんが、布団の中で息を吐くと、その息で布団が凍るほどの寒さ。
これは何とかならないものか、と常々思っていたそうです。
ある時、社長がフィンランドを旅行した際、外はマイナス20~30度なのに、どの窓も結露をしてないし、なぜどこにいってもこんなに暖かいんだろう、とショックを受けたのがきっかけです。
それから、どうすればフィンランドのような住宅が出来るんだろうか、と興味を持ちました。
断熱パネル工法やウレタンボード等いろいろな断熱方法を試みている時に、もう大学は退官されましたが、(室蘭工業大学の)鎌田先生に出会い、教えを乞いました。
こうして新在来木造工法に巡り会い、高断熱高気密の住宅を手がけ始めたのがスタートです。

それはどのくらい前ですか?

およそ20年前くらいです。

やはりスタートが早いですね。

そこから徐々に実験住宅を建てながら、データを取って性能の向上を目指し、今のこの家でもデータを何箇所か取っていますが、温度、湿度、省電力などのデータを取りながら、どうすればもっと快適になるのか、省エネになるのか改良を加えて、その積み重ねです。

渡邉さん自らデータをとるための機器を取り付け

ひとつひとつ試行錯誤を積み重ねていたら、いつの間にかトップにいたという感じなんですね。
今でも満足するというか、もっともっと良くしていく感じなんですね。

現在もその取り組みを続けていますので、これで完成、ということはありません。
この家にしても建てて住んでいく中で、こうしたらもう少し使いやすくなるかな、とか、もっと快適になるかな?とか・・・。
20年前に高断熱・高気密住宅を建てられたお客様とも、定期的に訪問させていただき、メンテナンスに関わりながらお付き合いをしています。
住宅は建てたら終わりではなく、フォローが大切ですから長い間しっかりとお付き合いをさせて頂きたいと思っています。

今、省エネ住宅には色々な呼び方がありますね。
例えば本屋へいくと、エコハウスを解説した本が売られていますし、住宅展示場へ行けば、「ZEH(ゼッチ)」と書いたのぼりが並んでいます。
消費者アンケートを見ていると、省エネって太陽光パネルを着ければいいとか、エネファームを採用すればいい、とか何と言うか設備さえあれば省エネだ!という傾向があると思います。
でも、エコハウスとかZEHとか、御社で取り組まれているパッシブハウスも含めて、何がどう違うのか、簡単に教えてください。

まずZEHですが、日本の基準ではどうかというと、暖房・冷房・換気・照明・給湯で使うエネルギーをソフトで計算し、消費するエネルギーと太陽光や風力などの再生可能エネルギーで創れるエネルギーとを相殺できる建物をZEHと呼んでいます。
例えば国の定める平成25年、28年基準の建物に、省エネ設備を入れて太陽光パネルをいっぱい着けてしまえば、クリアーは出来てしまいます。

規定はないのですね?エネルギーがプラスマイナスゼロならZEHだと。

一応、建物の断熱性については最低限の基準があります。
でも、とても低い基準です。
そのあたりは日本のビルダーへの配慮があると感じています。

だから、「設備を導入してZEHですよ」という売り方になるんですね。

それから、家電を除いていますが、家電と調理も結構なエネルギー消費になります。
それも太陽光で賄おうとするとかなり大変。
本当の意味ではZEH、ゼロエネルギーハウスではないんです。
ですので、かなり甘い基準で出来ていると感じています。

弊社としては、日本だとそれほど普及していませんが、全館冷暖房を採用していて、ヒートショックのリスク対策として行っています。
そうすると、現在国が定める建物の器の基準で建ててしまうと、莫大なエネルギーを無駄に使う住宅になってしまいます。
ですので岐阜県ではありますが、北海道クラス同等もしくはそれ以上の断熱性能で計画をしています。

この日は外気温が17~18度ほど。室内はエアコンなしでも十分暖かい。

それと、パッシブハウス。
渡邉さんはドイツのパッシブハウス研究所のパッシブハウスコンサルタントの資格をお持ちで、日本人でお二人目ですが、パッシブハウスも本屋にいくとそういうタイトルの本が並んでいます。
その考え方はどんなものですか?

まずは器をしっかりしようということなんですが、その理由というのは一度建ててしまうと、後から器の性能を良くするには手間も費用もかかる。
ですので出来る限り器をしっかりとした上で、足りない分の最低限の設備を入れます。
設備というのは建物と比べると寿命も短いですし、次々と最新のものが出てきます。
交換時期には当然、新しい製品に付け替えるわけなので、きちんととした器を作ることが大切です。
パッシブハウスの基本の考え方はこれと同じで、それをかなりトコトンやっているというイメージでしょうか。

もともとパッシブという言葉は、設備をアクティブなものとみなして、自然エネルギーを活かしていこうということですよね。

そうです。

パッシブハウスの認定証

あと、「エコハウス」という言い方はどう考えたらいいでしょうか?
どこにも、書いてますね。
例えば使う素材が自然素材でもエコハウスと言えますし、器の性能を良くして省エネな家もエコハウスでしょう。
建築ってプロじゃないとわからない、という部分が日本では根強いですね。
これがエコハウスですよ、って言われてもよく分からないんです。
御社の考え方として、本当のエコハウスってこんなもの、という理想形ってありますか?

理想形というのは、大きな意味で全て網羅したものだと思います。
究極的には、エコハウスというのは、言い換えると持続可能な社会で実現できる住宅だと考えられます
家の材料や素材、家の中で使うエネルギー、燃料などを含めて、ずっと循環できる社会に合わせられる建物なのかな、と思いますね。
化石燃料だと使えばなくなりますし、これから先は再生可能なものだけで、建物を建ててから壊すまで・・・・LCCM*に近い考え方なのかな。

*LCCM=ライフサイクルカーボンマイナス(建物を建設する段階から生活、解体、廃棄までを通じて生じる二酸化炭素の排出量を、再生可能エネルギー(太陽光・太陽熱など)の活用により収支マイナスにすること)

そうすると、住宅の寿命としても出来るだけ長く、ということですか。

そうですね。やはり20~30年で家を建て替える社会というのは、もう終わっていますし。

日本では、終わってないのが実情ですね。
でも終わらないといけないですね。

そういう意味でも今我々が取り組んでいる建物は、木材に関しては大体地域材を使います。
東濃ヒノキ、それから杉もあるので、そういった材料を使います。
地産地消というか。
あと、こちらの家では採用していませんが、土壁の住宅というのもやっています。
もともとこのあたりはきれいなヒノキがあって、昔から和室によく使われてきましたが、今は段々和室がなくなってきていますので、きれいなヒノキがあるのに需要が少なくなり値段も安くなっています。
そうすると林業も影響を受けて、木を伐ってまた植えるという循環がなくなります。。
そういった中で、土も同じように地域でとれるエコな建築材料ですし、施工をする職人さんも地元の人に頼んで、なるべく地域活性化につながるよう取り組んでいます。

ドイツのことをお聞きします。
ドイツは環境先進国と言われ、建築としても進んでいるといわれますが、渡邉さんが実際に住んで見られて、日本と違うと思われたことはありますか?

何かあったかなあ・・・
9ヶ月ほどいたんですけれど、初めの3~4ヶ月はドイツのマンハイムで語学の勉強をしていました。
フランクフルトから1時間くらい南に行った場所です。
その後、夏からオーストリアのインスブルグに移りすんで翌年の暮れまでいました。
マンハイムにいた時は春から夏にかけての時期だったので、ドイツのあのどんよりした環境で余り過ごしていないんです。
オーストリアに関しては、アルプスにはさまれた土地で日当たりがよくて、日本の内陸、ここ岐阜県にも近い感じの気候でした。
冷え込むんだけど、日射しが結構あるのでパッシブハウスにむいていて、パッシブハウス研究所を主宰するファイスト先生もインスブルグ大学で教鞭をとられています。

まあ、向こうに行って思ったのは、(建物の)壁が厚いなあ・・・、と。
夏はエアコンがなくても、窓をあけておけば過ごしやすいですね。
日本と比べると気温も涼しくて、湿度も低いので。
あと、本当に断熱していないところを除くと、築20年くらいの建物でも外付けブラインドが普通についていて、学生寮みたいな建物でも外付けブラインドが着いていました。
もうそれが標準、という感じでしたね。
建物がいいので、気温の低さも余り感じませんでした。

また、日本と大きく違う点は、全館暖房が普通だという点です。
日本みたいに一部だけ暖房する、という文化ではないですね。

外付けブラインドが活躍中

ドイツ人って一般人でも省エネを気にしているんでしょうか?

気にしているというよりはあちらでは法律でどんどん規制して縛っていきますね。
パッシブハウスは灯油換算で1.5リットル/㎡(年間暖房エネルギー量、最低室温20度)くらいの家なのですが、法律で5ℓとか3ℓとか規制がかかっています。
EnEVという日本でいう省エネ法みたいな規制があります。

弊社は、ドイツの樹脂サッシや外付けブラインドを輸入しているのでお聞きします。
こういったものが実際に日本の省エネ住宅で、どう役立つと思われますか。

建物の断熱性をつきつめていくと、一番ネックになるのがサッシです。
壁なら分厚くすればいいのですが、窓は無理矢理2重にするとかでなければ、ガラスとフレームなので。
また将来的には違うものが出るのかもしれませんが。
そうすると、窓の部分の熱損失が非常に大きいので、パッシブ設計をする上では、太陽の熱を冬はそのまま暖房に使いますし、中間期から夏にかけては、通風すれば良いので、建物の窓(の性能)の役割は省エネ化する上ではとても大事です。

地窓。窓の位置も大事な要素

また、どんどんパッシブハウスくらいのレベルまで断熱気密をつきつめていくと、太陽の日射熱をコントロールする術は必要になります。
今の時期だと少し涼しくなってきているのでいいですが、残暑厳しい時期だと、庇をきかせていても、どんどん日射熱がはいってきちゃうので。
やはり、日射遮蔽に関しては、外でするというのがセオリーというか。
一旦入ってしまうとガラスから外に出られなくなってしまうので、とにかく遮熱に関しては外でしないと効果が薄いですね。
ですから住宅の(器の)性能があがってくる上では、(外付けブラインドは)必要になりますね。

お施主様でもある橋本さん

最後に、パッシブデザインというのを、どんな風にお施主様にアピールされていますか。
お施主様と話していると、やはり何年でペイ出来るの?という話になります。
パッシブデザインの売りは快適性だと思うのですが、伝えることが難しいと思うのです。

単純に施主の立場から言えば、まず家を建てる時って、予算から考えますよね。
実際に僕は自分が働いている会社で建築部があるからお願いしよう、という流れでしたが、モデルハウスみたいに、土の塗り壁の高断熱(住宅)を建てられたら理想ですけど、予算面で断りました。
僕はこの会社で働いているから、ちょっと違いますが、家族からすれば「快適かどうかなんて、自分で住んでみないと分からない」って。

今、実際にどうかというと、内装的に希望が通っている、環境的には快適、でもエアコンの使い方とか設備的な部分の使いかたが難しい、というのがあります。

予算には決まりがあるのでどこをどこまでどうしたいか、家族の意向もありますね。
ここの開口部にしても気密をとるなら窓なしでいい。
デザイン的にFIXでもありですよね。
明かりだけを取り入れて、プライバシーを考えるとか。
だから、本当はこの部屋の4面(1階と2階)、全部フィックスでも良かったんだけど、何かあったときに2階からどうやって避難するの?とか搬入経路ということもあって、引き違いにしたいという要望を出しました。

1階のリビングからブラインド越しに外を見る

でも、ここの窓はパッシブ設計的にはいいんですけど、プライバシーで言えばまる見えですよ。
で、そんなときに約に立つのが外付けブラインドで、日射遮蔽のためもあるけど、プライバシーを考えた時、これがあると外からはそんなに見えない。
でも中からは外が見える。
明かりも取れる。シャッターには防犯とか防火の役割があるけど、効果が全く違います。

建てるときにパッシブハウス仕様にする、ということだったので日射取得を考えて開口部は元々計画していたんですが、当初は予算的に外付けブラインドなし。
でもどこかでシフトしていくかなんです。
例えばキッチンを普通のにして、外付けブラインドにしよう、とか。外付けブラインドじゃなくてよしずにしよう、とか。

施主から言わせれば、ZEHが走りすぎている。
断熱強化、気密強化、とか言いますが気密に関しては規定がありませんよね。
省エネって断熱のことだけで、じゃあ断熱材にしてもグラスウールなのかロックウールなのか、セルロースファイバーなのか、何が適切なの?と言われてもそこに規定はないわけですよ。

一般的なお施主さんからしたら、本当に興味を持ってこういう風にしたい、というのがなければ、苦労するし、工務店も苦労するだろうなと思います。
予算、資金繰りも考えると、大手メーカーさんに頼んじゃう気持ちも分かります。
子供がいれば養育費もかかるし、車にもお金が掛かるし。

でも、この住宅だったら何が変わるのと言ったら、この家には太陽光パネル10キロも乗っていない。
6.9キロなんですけど、光熱費自体は少ないので、月でいけば1万5000円くらいのプラスが出ています。
あと、余分にエアコンの電源を入れる必要がない。
1箇所で稼動しておけば十分。
あと2階は夏場でも快適に過ごせました。
それは日射遮蔽のあるなしで、ぜんぜん違ったので外付けブラインドの良さを実感しました。

エアコンはトイレの天井裏に隠してある

また、実際に住み始めて大きく違った部分は、よく寝れることですね。
快適だから。
要するに、夏に熱くて起きちゃうことがなくて、どこで寝ていても快適。
家の中の温度が一定なので。
他所に行ったとき、居間は涼しくてもトイレは暑い、2階に上がるとすごい暑い、というのを感じた時には、これが快適性の違いなんだと思いますね。
温度設定、湿度が保たれるのが性能の良さで、住み始めてからしか分からないんですが、一生に一度と言われる買い物ですから、自分も良い買い物をしたのかな、と思います。

また、住宅ではよく坪単価って使いますけど、そうではなくて、太陽光パネルを入れて設備を入れて予算総額でいくらなのか?
その予算ならどんな間取りでどんなプランなのか、工務店からもっと提案していけばいいですよね。
坪30万~とか798万~とか、うたっているところを一般ユーザーは見ますよね。
ある所では坪40万で出来ます、と言われた人が楽園住宅に来て、坪80万です、と言われたら「ええ!」となると思うんですけど、その差がどこにあるのか、なんですよ。

いかに快適さを伝えるか、と言う意味では、住んでいる人の意見ですよね。
実際に自分が自宅に住んで感じたことというのを伝えていけばいいのかな、と。
もっと言えば宿泊体験をしてもらうとか。
体感っていうやつですよね。
キッチンやお風呂のショールームに行くのと同じように、住宅そのものを感じる、というのが一番わかりやすいのかな。
快適性の部分って、やっぱり体感するしかないんです。モデルハウスのようにはいきませんが、僕はこの家にも来て頂けたらいいと思っています。

本日は、お話をお聞かせ頂きました、ありがとうございました。

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